歯医者になっても女は仕事させない常識
私が高校の時でしょうか
「お父さんは歯がないのよと」
母が小鳥がさえずりのようにリズミカルに言った
私の背筋が凍る
そういえば
父は出勤前、毎日トイレで吐いていた
私が小学校の時に気が付いたと思う
父が苦しそうにトイレで吐く姿を見るに耐えないので
直ぐに場所を移動した
吐いている事実を母に言ったら
「お父さんは診療所に行く前は緊張しているのよ」
「緊張で吐くのよ」
そんなようなことを言った記憶がある
お父さんの歯の治療はお母さんが自宅でやっていた
リビングの部屋が強いライトで光っている
時々お父さんの相変わらずの怒鳴り声がしている
お母さんはどんな思いで治療していたのだろうか
大学を卒業して1年だけ大学病院で仕事をしていた
母は「この仕事をする為に生まれてきたと思えた」
「体が軽くなって頭が働き手足が動くのよ」
そのように私に話していた
仕事をしたいのにできないのが辛そうな毎日を
家事をするのは苦しいと、日中みのむしのように丸く動かない母
2人とも辛そうにしている姿は、私の心をむしりとります